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性感染症
クラミジア感染症は、日本で最も感染者数が多い性感染症（STD）のひとつです。原因となるのは「クラミジア・トラコマティス」という細菌で、主に性行為を通じて感染します。女性では子宮頸管、男性では尿道、またオーラルセックスによって咽頭（喉）にも感染することがあります。咽頭に感染した場合は、咽頭炎や扁桃炎を引き起こすことがあり、自覚症状が乏しいまま進行するケースもあります。男性が感染すると、尿道炎や精巣上体炎などの症状が見られ、放置すると不妊の原因となることがあります。
女性の場合は、子宮頸管炎や子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎、さらには肝周囲炎を引き起こす可能性があり、重症化すると不妊症に繋がることもあります。また、クラミジアは淋菌、マイコプラズマ、ウレアプラズマなど他の病原体と同時に感染することもあるため、注意が必要です。
淋菌感染症は、淋菌（Neisseria gonorrhoeae）という細菌によって引き起こされる性感染症です。主に性行為（膣性交、肛門性交、オーラルセックス）を通じて感染し、男性・女性ともに尿道や性器、咽頭、直腸などに感染する可能性があります。感染しても初期は自覚症状がないことも多く、気づかないうちに他人に感染させてしまう恐れがあります。
男性が感染した場合は、排尿時の痛みや膿のような分泌物（膿性分泌物）がみられる尿道炎を発症しやすく、進行すると精巣上体炎を起こすことがあります。女性の場合は、子宮頸管炎や骨盤内感染症（PID）を引き起こすことがあり、重症化すると不妊や慢性的な骨盤痛の原因となることもあります。
また、オーラルセックスによって咽頭に感染することもあり、この場合は症状がほとんど現れないことが多く、感染源として気づかれにくい点が問題です。最近では、薬剤耐性を持つ淋菌も報告されており、治療が難しくなるケースもあります。感染が疑われる場合は、早めの検査と治療が重要です。
尿道炎は、原因となる病原体により大きく3つに分類されます。
クラミジア性尿道炎、淋菌性尿道炎、非クラミジア・淋菌性尿道炎です。
このうち、「非クラミジア・淋菌性尿道炎（NSU）」の原因として近年注目されているのが、マイコプラズマおよびウレアプラズマによる感染症です。クラミジアと似た症状がみられることが多く、排尿時の違和感や軽度の尿道のかゆみなどが現れる一方、無症状のまま進行するケースも多く報告されています。
検査では以下の4つの菌に分類して調べることができます。
これらの菌は、性行為やオーラルセックスを通じて尿道や咽頭に感染する可能性があります。
マイコプラズマやウレアプラズマは、症状が非常に軽い、あるいは全く現れない場合が多いため、感染していても気づかないことがあります。性交渉後に軽い尿道炎のような症状が長引いている方、また感染の機会があった方には検査をおすすめします。
膣トリコモナス感染症は、「トリコモナス原虫（Trichomonas vaginalis）」という寄生性の微生物によって引き起こされる性感染症です。婦人科領域やSTD（性感染症）としても比較的よく知られた感染症のひとつです。
主に性行為を通じて感染しますが、トリコモナスは乾燥に弱い一方、水中では長時間生存し感染力を保つため、まれに共用の入浴用品などから感染する可能性も指摘されています。
女性では、悪臭を伴う黄緑色のおりもの、外陰部のかゆみ、排尿時の痛みなどが主な症状です。一方、男性は無症状であることが多いものの、前立腺や尿道に炎症を起こすこともあります。また、トリコモナス感染症は再発しやすいことでも知られています。再発の原因としては以下が考えられます。
治療の際は、パートナーと同時に検査・治療を受けることが非常に重要です。
カンジダ感染症は、「カンジダ属（Candida）」という真菌（カビ）の一種が原因で起こる感染症です。女性の膣や男性の陰部、口腔内、消化管などに常在している菌ですが、免疫力が低下したときや特定の環境下で異常増殖することにより症状が現れます。
カンジダは、以下のような状況で発症しやすくなります。
性行為によって感染することもありますが、必ずしも性行為が原因で発症するわけではありません。そのため、カンジダ感染症は一般的な性感染症（STD）とはやや異なる位置づけとされています。
女性では、強いかゆみ、白くポロポロしたおりもの、腟や外陰部の赤みや腫れなどが現れることがあります。男性では、亀頭の赤み、かゆみ、かぶれ、白い分泌物などが見られることがありますが、無症状のまま経過することも少なくありません。
カンジダ感染症の治療には、抗真菌薬が用いられます。症状や感染部位に応じて、以下のような薬剤が処方されます。
適切な薬を使用することで、通常は数日～1週間程度で症状が改善します。自己判断で市販薬を使用せず、医療機関での診断と治療を受けることが大切です。また、再発を繰り返す方には、生活習慣の見直しや、体質に合わせた治療方針を検討することもあります。
カンジダ感染症は、性行為だけでなく日常生活の中でも自然に発症することがあるため、次のような予防策が効果的です。
繰り返しやすい疾患だからこそ、正しい知識とセルフケアが予防の鍵になります。違和感がある場合は、早めにご相談ください。
単純ヘルペスウイルス（HSV：Herpes Simplex Virus）は、皮膚や粘膜に感染し、水ぶくれや痛みを伴う炎症を引き起こすウイルスです。感染部位によって症状が異なり、代表的なものに次の2つがあります。
口唇ヘルペス（HSV-1）
唇やその周囲に水ぶくれができるタイプ
性器ヘルペス（HSV-2）
性器周辺に症状が現れる性感染症の一種
かつては「HSV-1は口唇、HSV-2は性器」とされていましたが、近年ではオーラルセックスなどにより1型ウイルスが性器に感染し、性器ヘルペスとして発症するケースも増えています。そのため、ウイルスの型で明確に区別することは難しくなっています。
ヘルペスウイルスは一度感染すると神経節に潜伏し、完全に体外から排除することはできません。多くの人が無症状のままウイルスを持っており、日本人の70〜80％がHSV-1を保有しているともいわれています。発症のきっかけには以下のような要因が関係します。
一部の人は一度も発症することなく一生を終えることもありますが、無症状の状態でも他人に感染させる可能性があるため注意が必要です。
現在、単純ヘルペスウイルスを完全に除去する治療法は存在しません。しかし、発症時の症状を和らげ、回復を早めるために抗ウイルス薬（内服・外用）が用いられます。
単純ヘルペスは、ウイルスが活性化している（症状が出ている）時に感染力が高まります。以下の対策で感染のリスクを減らすことが可能です。
梅毒（ばいどく）は、梅毒トレポネーマ（Treponema pallidum）という細菌によって引き起こされる性感染症です。梅毒は、進行が段階的で、早期に適切な治療を受けることが重要です。もし治療を受けずに放置すると、命に関わる重大な疾患を引き起こすことがあります。
梅毒は、感染から進行する症状が4つのステージに分かれています。
初期段階（一次梅毒）
感染後、約3週間後に陰部や口腔内、肛門などに硬い痛みのない潰瘍（しこり）が現れます。潰瘍は数週間で治癒しますが、感染は体内に残り続けます。
二次梅毒
初期症状が治癒した後、数週間から数ヶ月の間に全身に赤い発疹や湿疹、発熱、喉の痛み、リンパ節の腫れなどの症状が現れます。二次梅毒は治療を受けることで症状は改善しますが、治療しなければ再発しやすくなります。
潜伏梅毒
二次梅毒が治癒した後、症状が一時的に消え、無症状の潜伏期に入ります。この段階では、感染者が他人に梅毒を伝播する可能性があるため、注意が必要です。潜伏梅毒の間にも、体内では感染が進行していることがあります。
三次梅毒（晩期梅毒）
初感染から数年が経過し、重大な臓器障害（心臓、神経、内臓など）や神経梅毒、進行性の壊死などが現れることがあります。この段階に進むと、治療が遅れた場合、生命に関わることもあります。
梅毒は主に性行為（膣性交、口腔性交、肛門性交）を通じて感染しますが、感染者の血液を介しても伝染するため、注射針の使い回しなども感染経路となります。感染者は症状が出ていなくても、他の人にウイルスを感染させることがあるため、注意が必要です。
梅毒の症状は段階ごとに異なります。一次梅毒では無痛のしこりが、二次梅毒では発疹や発熱が現れます。また、三次梅毒では臓器の障害が進行するため、注意が必要です。早期に発見されれば、治療が可能であり、症状の進行を防ぐことができます。
梅毒は抗生物質（ペニシリン）を使用して治療します。一次梅毒から二次梅毒までの段階であれば、適切な治療を受けることで、症状の改善が早く、完治が可能です。三次梅毒の段階に進む前に治療を行うことが非常に重要です。
梅毒を予防するためには、性行為中にコンドームを使用することが最も効果的です。コンドームを使用しても100%の予防はできませんが、感染リスクを大幅に減らすことができます。
また、感染者との接触を避けること、定期的な性感染症検査を受けることも予防の一環です。
梅毒は早期に発見し、治療を行えば完治することができます。症状が気になる場合やリスクがあった場合は、早めに専門医を受診し、検査を受けることをお勧めします。
HIVは、ヒト免疫不全ウイルス（Human Immunodeficiency Virus）の略称で、人の免疫機能を徐々に低下させていくウイルスです。感染すると体の抵抗力（免疫力）が弱まり、さまざまな病気にかかりやすくなる状態が引き起こされます。
HIVそのものはすぐに重い症状を起こすことは少なく、長い潜伏期間（数年〜10年以上）を経て、治療をしないまま進行すると「エイズ（AIDS：後天性免疫不全症候群）」を発症する可能性があります。
HIVは、以下の体液にウイルスが含まれており、それが粘膜や傷口などから体内に入ることで感染します。
主な感染経路には以下があります。
※日常的な接触（握手、会話、同じトイレの使用など）では感染しません。
HIV感染後、次のような段階を経て進行していきます。
急性期
（感染後2〜4週間）
インフルエンザのような発熱、倦怠感、喉の痛み、リンパ節の腫れなどが出ることがありますが、多くは数日〜数週間で自然に治まり、その後無症状の状態になります。
無症候期
（潜伏期）
症状は現れませんが、ウイルスは体内で増殖し続けています。この期間は数年〜10年以上に及ぶこともあります。
エイズ期
（後天性免疫不全症候群）
免疫力が著しく低下し、健康な人ではかからないような日和見感染（例：肺炎、カンジダ症、帯状疱疹）や悪性腫瘍（がん）を発症します。
現在の医療では、HIVそのものを完全に排除する治療法は存在しませんが、抗HIV薬（ART＝抗レトロウイルス療法）の進歩により、感染後も長期にわたって健康な生活を送ることが可能です。
コンドームの使用
性行為時に正しく使用することで、HIVをはじめとする性感染症のリスクを大幅に減らすことができます。
定期的な検査の受診
HIVは初期に症状がないため、感染の不安がある場合は検査を受けることが重要です。
PrEP（プレップ）
曝露前予防内服療法と呼ばれ、HIV感染リスクの高い方が感染を未然に防ぐ目的で使用する薬です。国内でも一部の医療機関で対応しています。
必要であれば、検査方法（匿名検査、即日検査、血液検査）や他の性感染症との同時検査についての案内も追加できます。ご希望があればお知らせください。
尖形（せんけい）コンジローマは、ヒトパピローマウイルス（HPV）の感染によって発症するウイルス性の性感染症です。特にHPVの6型や11型が原因となることが多く、性器や肛門のまわりにイボ（疣贅）状の突起ができるのが特徴です。
※再発の可能性があるため、治療後も経過観察が重要です。
HPV（Human Papillomavirus／ヒトパピローマウイルス）は、非常に一般的なウイルスで、主に性行為を通じて感染することが知られています。100種類以上の型があり、そのうち約40種類が性器や肛門、口腔などの粘膜に感染します。HPVには大きく分けて2つのタイプがあります。
低リスク型
（例：6型、11型）
主に尖形コンジローマ（性器周辺にできるイボ）の原因となります。
高リスク型
（例：16型、18型など）
子宮頸がん、肛門がん、陰茎がん、咽頭がんなどのがんの原因となることがあります。
| HPV型 | 関連疾患 |
|---|---|
| 6型・11型 | 尖形コンジローマ |
| 16型・18型 | 子宮頸がん、咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなど |
HPVワクチン（子宮頸がんワクチン）は、HPV感染を予防するための非常に有効な手段です。
これまでHPVワクチンは、主に子宮頸がん予防を目的に女性への接種が推奨されてきましたが、近年では男性への接種の重要性も注目されています。
アメリカやオーストラリアなどの多くの国では、男女ともに定期接種を推奨しています。日本でも今後、男性への接種推奨が広がる見込みです。
現在、男性に接種できるワクチンは主に9価ワクチン（ガーダシル9）です。
現在、日本では**男性のHPVワクチン接種は任意接種（自己負担）となっております。一部自治体では男性への助成制度がある地域もありますので、事前にお住まいの自治体にご確認ください。
HPVは一度の性行為でも感染する可能性があるウイルスです。発症しないまま潜伏し、気づかぬうちに他者へ感染させてしまうこともあります。
男性の接種は、自分自身の健康を守るだけでなく、パートナーや将来の家族を守る行動にもつながります。思春期や若年層での接種が特に効果的とされていますので、ぜひ接種をご検討ください。
毛じらみ症（陰部シラミ症）は、「ケジラミ（Phthirus pubis）」という寄生虫が、主に陰毛に寄生して吸血することで起こる感染症です。一般的に性感染症（STD）の一種とされ、性行為を通じて感染することが多いですが、稀にタオルや寝具などを介してうつることもあります。
※感染部位は主に陰毛ですが、まれに脇毛、胸毛、まつ毛、髭などの体毛に広がることもあります。
※治療後は、寝具・下着・衣類の熱処理や洗濯・乾燥を行い、再感染を防ぐことが重要です。
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